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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)2915号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、<証拠>によると、次の事実が認められ、この認定を覆えすに足る証拠はない。

原告は、昭和三九年八月二七日、被告会社の外務員である楠本富夫に金一〇〇万円を返還期日昭和三九年一二月二七日、利息年八分の約定で交付し、その際楠本富夫は被告会社堺営業所用箋と記載してある用紙を用い、原告宛に受取人「角丸証券堺楠本富夫」と記載した預り証(甲第一号証)を作成し、「角丸証券堺営業所」と記載してある封筒(甲第三号証)に入れて、原告に交付した。楠本富夫は右金一〇〇万円を被告会社に入金しなかつた。

被告は本件金一〇〇万円は原告と山本永治間の消費貸借あるいは原告と楠本富夫間の個人的な預託関係である旨主張するが、前判示のとおり被告会社の外務員たる楠本富夫が被告会社用の用紙並びに封筒を用いて預り証を作成している事実に照すと、代理権の有無は後に判断するとして、本件金一〇〇万円は原告と被告会社の代理人である楠本富夫との間の金銭預託契約であると認定するのが相当であり、他に右認定を覆えす証拠はない。

三、原告は右契約は楠本富夫の被告会社を代理する行為である旨主張するので判断する。

被告会社が前判示のとおり証券取引法に定める証券会社であり、楠本富夫が昭和三九年八月二七日当時被告会社の外務員であつた事実は当事者間に争いがない。そして証券業者の外務員の代理権の範囲については、証券業者の使用人として、証券業者から個別的に明示の代理権授与を受けなくても、一般に証券業者を代理する権限を有するものと解すべきであるが、もとより証券業者の営業の範囲を越える行為については当該証券業者の代理行為としての効力を生じないものというべきである。

<証拠>によると、証券業者が不特定多数の顧客から有価証券の消費貸借契約をし、顧客に日歩一厘の運用料を支払い、借り受けた有価証券を担保として株式の自己売買の資金を捻出する、いわゆる運用預りと称する制度があるが、証券業者が顧客から利払の約束の下に金銭を借り受けることは存在しない事実が認められ、証人楠本富夫、山本永治の証言中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。そして証券取引法によると証券業者の営業の範囲は法定されており、兼業を禁止され、証券業者が自己の営業資金のため顧客から金銭を預り入れることは認められず、その営業の範囲に属する事業を遂行するに附随する行為とも解することもできない。

してみると、楠本富夫が被告会社の代理人としてなした本件金一〇〇万円の預託契約は、被告会社の営業の範囲を越えるものであつて、被告会社の代理行為としての効力を生じないものというべきである。

従つて原告の右主張は理由がない。

四、次に原告の使用者責任の主張について判断する。

前判示のとおり楠本富夫が原告から金一〇〇万円を預り被告会社に入金せず、原告に同額の損害を生じさせたことは楠本富夫の原告に対する不法行為であることは明白である。そして前判示の争いのない事実並びに<証拠>をも考え合わせると、楠本富夫は証券業者たる被告会社の外務員であつて、株式・債券・投資信託などの売買の勧誘をし、委託注文を受け、その取引に関し顧客との間で証券や金銭の受渡しをするものであり、本件金一〇〇万円はかかる勧誘をなすに当り、預託契約をしたものと認められ、これを覆えすに足る証拠はない。そうすると楠本富夫が原告から金一〇〇万円を預つた行為は、被告会社の営業に属する勧誘業務の執行に付きなしたものであるから、被告会社の事業の執行に付きなしたものと解すべきである。

被告は、被告会社は利払の約束の下に金銭を預ることは営業の範囲外であり楠本富夫の右金銭預り行為は、被告会社の事業の執行につきなされたものではない旨主張して争うのでさらに検討する。利払の約束の下に金銭を預る行為が被告会社の営業の範囲に属しないことは前判示のとおりである。しかし代理行為の効力が被告会社に及ぶかを考える場合に、被告会社の営業に属するかの問題と使用者責任につき使用者たる会社の責任の根拠としての事業の執行に付きといえるかの問題は自ずから観点を異にし、使用者責任が被用者の行為によつてそれだけ使用者の社会的活動が拡張されているところにその責任の根拠が求められる以上、客観的外観的に事業の範囲内と認められれば足るものと解すべきである。ところで前判示のとおり楠本富夫は金一〇〇万円を利払の約束の下に預り、角丸証券堺楠本富夫を受取人とする預り証(甲第一号証)を作成し、これを角丸証券堺営業所用の封筒(甲第三号証)に入れて原告に交付したものである。そして、<証拠>によると、外務員は被告会社の営業に属すること明らかな有価証券、投資信託等の取引に際し現金の受渡しをし、通常は乙第二号証の一乃至四の如き預り証を発行するが、メモ用紙などに預つた意味を書いて渡して帰える場合もある事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。してみると本件金一〇〇万円を楠本富夫が預つて甲第一号証の預り証を作成交付した行為はかかる場合と客観的には区別がつき難く、外形的には、被告会社の事業の執行に付なしたものと認められる。

そうすると被告会社の使用者責任を求める原告の主張は理由がある。(岡野重信 中田耕三 宮良允通)

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